スタンド・バイ・ミー 2009
時間が降り積り地層を成す。その地層の中で不意に発掘した化石が、今の僕を照らす事の不思議について語りたい。
友人がプロジェクターを買った。彼は今、映画鑑賞にはまっている。
次に見る作品は『スタンド・バイ・ミー』だと聞いた。
その言葉をきっかけに、僕の地層の中からある化石が発掘された。
それは22歳の頃の思い出。
アメリカに三週間、友人と旅に出ていた僕は、グランドキャニオンである日本人女性二人組に出会った。歳は、当時の僕の二つか三つ年上だったと思う。
「ここ(グランドキャニオン)に来る前は、どこをまわってたんですか?」
と僕が聞くと、彼女たちは、
「ハリウッドにいたんです」
と答えた。
彼女たちは二人とも、映画がとても好きだと言う。
部屋に帰る前、二人いたうちの片方の女性と、ほんの数分間、二人きりになった。その時彼女が僕に聞いた。
「ベスト映画ってありますか?大好きな映画」
僕はすぐに思いつけなかったので、適当に、本当に適当に、
「色々ありますけど、どれがベストかは言えないですね」と答えた。
そして今度は僕が逆に聞き返した。すると彼女はスマートに
「有名な映画で月並みかもしれないんですけど、『スタンド・バイ・ミー』が大好きです」
と本当に素敵な笑顔を浮かべながら答えてくれた。
それっきり、僕は彼女と会っていない。あの瞬間っきり。
僕は旅から帰ると、『スタンド・バイ・ミー』を観た。
十代の頃見た時にはあまりピンとこなかったが、今回は、主人公と自分が重なる部分もあり、おおいに心を揺さぶられた。そして後悔した。
僕は何故あの時、彼女に適当なことを言ってしまったのだろうと。色々な映画が頭に浮かんでいたなら、順番やたどたどしさなど気にせず、何か、映画の名前を言えたのではないか?
僕はこの瞬間悟った。これが一期一会というものかと。
その思い出話を、プロジェクターを買った友人に告げると、友人は、
「彼女はペヨー太さんに与えてくれて、ペヨー太さんは彼女に何も与えられなかった」
とひとこと言い切った。
その通りだと思った。
そしてその数時間後、友人から、人間と時間の不思議について話が出た。
友人は言う。人間の時代背景がどんなに変わろうとも、人間その物が持つ時間の性質は変わらないと。それはいつの時代でも、重要なテーマに成りうるのではないかと。
偶然、僕もまさにそのことについて考えていたんだ、と僕が続けた。
友人から不意に『スタンド・バイ・ミー』の話が出て、僕が、22歳の頃の思い出を語って、そしてそれを友人が聞き、僕にある種の答えを与えてくれる。
22歳の頃、グランドキャニオンであの女性に会わなければ今この瞬間は全く違う物になっていたはずだ。この人間が持つ不思議な時間のつながり、そのつながりが示す奇跡のようなきらめき。
時間は降り積る。降り積り続ける。これからも現在は地層となり、思い出は化石となり続けるだろう。しかし、僕らはその地層から、化石から、現在に物語を持ち帰ることができる。そしてその物語が、未来という新しい物語を紡いで行く重要なキーとなることもある。
不思議な時間の糸は連綿と続いていく。それがまるで、生きる事の根幹とでも感じさせるかのように、深く。
植岡勇二:ペヨー太
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