デジタルzin!ポエジン『宇宙塵』/即興詩人・AI UEOKA

即興詩人・AI UEOKAによるデジタルzin! 雑多な芸術・らくがき日記。

レースゲーム


人と会うことによって、自分の現状が、まざまざと炙り出されることがあります。


2015年の初夏、僕は国立市・谷保にある『circle』さんの、本屋に併設されたギャラリーをお借りし、企画展示会を行いました。


『胡蝶の舟・うたわゆめをわたる』展示会@circle 
(↑展示の様子はこちらから)


2010年から2011年の間に、僕は『霊界道五十三次』と題したファンタジー小説を書いていました。歌川広重さんの浮世絵シリーズ『東海道五十三次』の画集を、一日一宿場めくり、その一枚一枚の浮世絵から着想を得て、毎日、3枚から6枚の小説を書き起こし、それをストーリー展開でつなげ、ひとつの小説に仕上げたんです。


それは、はじめて書き上げることのできた長編小説であり、僕が、ものづくりをやっている一番近くにいた友人に、「創作の世界へようこそ」という言葉を、はじめて掛けて貰えた瞬間でもありました。

その後、近所の谷保にあるコミュニティ『やぼろじ』内に、『circle』さんが開店したことを知り、お邪魔して一発で惚れ込み、その日の帰りには、レジにいたバイトの飯塚さんに、「『circle』さんは、展示会の企画持込みは可能ですか?」とお声掛けさせて頂き、まず探りを入れました。


飯塚さんは、微笑みを浮かべながら「うちはウエルカムですよ」と言ってくださり、その二か月後には、企画書の原型のような作品集や提案書・店長である丸山さんへのお手紙などを持参し、丸山さんに、企画展に関するお話を聞いて頂きました。


はじめて本格的にギャラリースペースをお借りして展開した僕の企画展示会『胡蝶の舟・うたはゆめをわたる』は、以前、勤めていた『手創り市』で出会うことができた、様々な作家さんのご協力のもと、展開させて頂きました。

ひとつの展示会を形にする、その手法を『手創り市』主催者・名倉哲くんから学びつつ、たくさんの方の応援を得、なんとか展示会は無事に終了。

しかし世で仕事をしている以上、「はじめてのことだから」、という言い訳は、全く利かないとがわかりつつも、結果、「はじめてのことだからしょうがないんじゃない?」と、みなさんに、あたたくフォローされなければ成り立たないような、仕事の中身・仕方を展開してしまったことへの後悔が、強く残りました。


そんなモヤモヤをずっと抱えつつも、『circle』さんは、いつも、DMにて展示会のお知らせをくださり、罪悪感を多少抱きつつも、足を運べる機会には展示会を拝見させて頂いていました。

その『circle』さんが、今回、国立の駅前に、新しい文化の交流スペースとして、『Museum shop T』をオープン。

http://www.t-museumshop.com/

今後この場所を『地域の文化と本のあるお店』をコンセプトに、『circle』の継承店として展開していくとのこと。昨夜、そのオープニングパーティーにお邪魔させて頂きました。


雑居ビルのワンフロワーに、本屋とギャラリー、丸山さんたちが働くであろう事務所が同居している空間づくり。事務所も特に、扉などで仕切る訳でもなく、仕事と街がオープンに一体化しているシンボリックなつくりであるように感じました。


ギャラリー空間は、『circle』さんとは明らかに空気感の違う、ほぼ完璧なホワイトキューブ

それ故に、作品が入ってみない昨夜の段階では、全く何とも言えませんが、パーティーでお知り合いになった『片岡メリアス』さん、というぬいぐるみ作家さんの展示会が、今後展開されるということで、すごく楽しみです。

メリアスさんは、自分が生み出したぬいぐるみを、自分の子供のように愛しているようで、その純粋な姿勢には、気付かされるものがありました。

http://soen.tokyo/blog/meriyasu/


パーティーの半ばでは、久々に丸山さんと少しの時間お話しをし、現状報告のあと、作品の完成度と仕事の関係性について質問をさせて頂く展開になりました。


それは、僕自身が、『circle』さんでの展示会後に、つくることへの姿勢がガラリと変わり、はじめて自分の作品にプロとしての自覚を得ることができた経緯があり、それを踏まえ、「丸山さんが、自分の作品に納得できるようになったのって、いつ頃ですか? 早そうですが」、とお聞きしました。


「僕の場合、デザイナーなので、作品って感じでは仕事を捉えてないので、そのあたりの感覚の違いはあると思うのですが」と丸山さんは前置きし、「自分の最高傑作を提出する気持ち・姿勢では、どんな仕事にのぞむことも大切ですが、実際は、案件によって条件が異なり、10割は絶対に打てない」と答えてくれました。


僕は、常に、10割打っていく姿勢でやっていますし、実際10割打ってます、的なことを、もっとやわらかい言い方で、間接的に投げてみると、丸山さんは、
「逆に10割打てる人は、目標の設定値がまだ低いから、打ててるんだと思います」
と、ぴしゃりと言ってくださりました。

なるほど。その通りだと腑に落ち、僕が「その通りですね」と素直に返すと、「大切なのは、大局的に観て、自分が成長しているかどうかの方だと思います」とも付け加えてくれました。

そんな会話を反芻しながら、国立から夜道を歩いて帰りました。
そこで気付いたことを挙げておくと、「詩人は、常に最高のものを書かなければならないという宿命を負っている」、ということと、「一度走り出した以上、加速度を上げる以外に生きる道はなく、停滞や減速は魂の死を意味する」という、ふたつの抽象的概念が浮かび上がりました。


でも、今のところ、これが可能なのは、やはり丸山さんのいうように、目標の設定値が低いから、というか、そもそも自分は、目標を定めてなかったんだなと、気付かされもしました。


自分のやりたいことを、今の自分のできる全力で、実現化していく。
そして、完璧に完成、という感覚が訪れた作品のみ、仕事として世に出している。


というのが最近の僕のスタンスですが、これなら10割打てるのは、まぁ当たり前ですよね。
加速と成長さえ続けていれば。
もちろん、締め切りは必ず守りますが、そもそも守れない約束をしないよう、注意深くもなったし。


さて、そういったことを受け、最も大きな気付きを得たのは、自分が独立し、創作活動をはじめてからというのも、いつの間にか僕は、自分や他者の作品や才能に、明確な優劣をつけるようになっていたことに気付かされた、ということです。


つまり、芸術で『レースゲーム』をしていたんです。

前回、国立新美術館で開催された、『草間彌生・わが永遠の魂』展を観て、草間さんの作品は変わったんだな〜と感じました。

それは、今回の展示会における、草間さんの作品が、芸術的感覚を、ドラッグの売人のようにパッケージング・デザインして、見せやすい形で展示しているように感じられたことにありました。

もはやこれらは、僕の中では、芸術ではなく、デザイン(商業)なんだな、と感じたんです。もちろん、それは全然悪いことではないですが、僕が主観的に草間さんの作品に求め、好きだった感覚とは、最早異なる、という現在を知ったというだけのことです。

http://kusama2017.jp/


自分もいつの間にか、技術が下手に上がったせいか、作品をデザインするようになっていた。そして、そのデザインが作品から発する感覚の増幅につながるなら、全然いいのですが、たんに、伝わりやすいこと・いかに伝わるかを意識した、チェックリストに当てはめつつ、僕なりの感覚システムのフレームに落とし込んでいただけ。

で、そこからフレームアウトし、魂がはみ出していくかのようなパワーを新たに宿すデザイン力も、いまは、まぁ、ない。


もちろん、仕事として、作品を作為によってデザインするのは必要なスキルではあります。最近受賞した『島崎藤村記念文芸祭』も、あらかじめ、アルバイトとして賞金を狙って応募した側面も強かったのですし。お金を稼ぐ手段として、創作を行うことは別に悪いことでもなんでもない。

でも、今回の気付きを受け、もともと僕は、本当にそれがしたかったことであったのか? これからもしたいことなのか? という問いにさらされました。

で、今回、「明らかに違う」のだということにも、気付けたんです。

なるほど。パーティーに来ていた丸山さんの周りには、純粋に創作を楽しんでいるであろう方がたくさん来ていた。それを実際の仕事につなげている方も多かったと思うのですが、多くの方に芸術をレースゲーム感覚でギラギラ行っている方は見受けられなかった。


執筆・編集・推敲・校正を含めた、詩をつくる作業ゲーム。

詩を発表し、または広く世に出すために文学賞受賞を狙い、受賞し、拡散するための、広報ゲーム。

ひいては、詩をつくり、自分もまわりもイカし、宇宙をイカす、宇宙超越を感覚的に狙うことさえ、ゲームでしかないんです。


目標、つまり、ゲームクリアを設定した時点で、そこにゲームシステムとゲーム性が生まれてしまう。そして昔からゲーマーだった僕は、ゲームシステムを見極めようとし、プログラム(法則・方程式)の解析を試み、そこから攻略法を得ようとする。早解きさえ狙う。

『ゲーム』とは、宇宙の本質を表わす言葉です。

そして、芸術は、あらゆるゲームの外にあるから、芸術なんだと思います。だからこそ、実現できる何かがきっとある。

そういった気付きを得るきっかけをくださった、今回の『Museum shop T』さんのパーティーには感謝しています。


パーティーにて、国立北口にある『くにきたべーす』というイベントスペースを、ここ数カ月の間にスタートさせた佐藤さん夫妻と、お知り合いにもなりました。

https://kunikitabase.jimdo.com/

佐藤さん(旦那さん)は、今後このイベントスペースをいかに活き活きとした場所に出来るかを、真剣に検討中という姿勢を示してくださりました。

その熱を受け、今自分の中で構想している展示会の原案を聞いて頂きました。

もちろん、『くにきたベース』の場所に訪れたこともないのに、企画を提案するのは失礼にあたりますので、7日からはじまる展示会に、まずお邪魔させて頂く約束をしました。
それが今、すごく楽しみです!



植岡勇二

https://ueokayuji.tumblr.com/


『馬野ミキ・Saint-Germain-des-Prés(Japanese Cover)/Take2』