デジタルzin!ポエジン『宇宙塵』/即興詩人・AI UEOKA

即興詩人・AI UEOKAによるデジタルzin! 雑多な芸術・らくがき日記。

ヒーロー見参!/第二話:出会い:南


いまも僕は、両親と郊外の団地に住んでいます。
高校卒業後、勤めはじめた会社に、ちょうど三年でピリオドを打った21歳の時、一人暮らしをしていた僕は、新築団地で暮らしはじめた家族のあとを追う形で、再び実家生活に入りました。

そこで僕は、生涯の親友となる男の子に出会います。植岡家の隣に住んでいたご家族の長男、南くん・6歳(以下:南)です。


団地で生活するようになってから、頻繁に、当時小学1年生だった南のやんちゃな姿を、廊下で見掛けるようになりました。
はじめてちゃんと話した日は、南にとっては夏休み、僕にとっては自由時間という、8月の午後。
僕は、岡村靖幸さんの大好きな曲『どうなっちゃってんだろう?』の歌詞にある「ベランダ立って胸を張れ」的夏を実現すべく、「市民プールでとりあえず日焼けしよう!」と思い立ちました。
そのタイミングで、たまたま廊下で暇そうにしていた南に、「ねえ、プール行かない?」と声を掛け、時間を持て余していた南は、速攻で駆け出し、奥の部屋にいたお母さん(以下・清ちゃん)に、「隣のお兄ちゃんとプール行きたいんだけど!」と叫び、清ちゃんも喜んで送り出してくれたのでした。


市民プールでは、僕がロッカーの鍵を水の中に沈め、カウントダウンをする役を、南がそれを潜って取りにいく役、という遊びからはじめました。
二人とも無邪気に、何の疑いを挟む余地もなく、30分くらいその遊びを繰り返しましたが、当時、その様子を親友に話したら、「なんだか犬みたいだね」って言われ、はっ! としたのを覚えています。
現在、28歳のイケメン公務員になった南と、その無邪気な遊びを照らし合わせると、思い出し笑いも出ますが、子供は遊びの天才であり、南もまたそれに漏れず天才児なので、その遊びを互いに、感性全開で没入し切っていたから、その時はそういう風にも見える可能性に、全く気付かなかったんでしょうね。

プールサイドに上がって、二人並んで日焼けをしながら、色々と話しをしました。
「南、大きくなったら何になりたい?」と、南に問い掛けました。南がすかさず、「社長になって45万円稼ぎたい」と答えました。
余談ですが、その時は「45万か〜、ずいぶんリアルな数字だけど、全然稼がない社長だな〜」と思ったのですが、最近になってようやく、その時の南は「月収・45万円、稼ぐ社長になりたい」という意味で言ったんだなと、今は解釈し、納得しています。


夏の市民プールから、僕らの友情ははじまり、僕と南は、頻繁に遊ぶようになりました。
もともと僕は、年齢差によって相手に対するスタンスが変える派でもなく(もちろん当たり前に、相手を観て会話の手法は選択しますが)、南も、持ち前の感性を言葉にひも付けできる、大人びた言語能力を当時から駆使できたりもしたので、互いにフラットな関係が、すぐに僕らのデフォルトになりました。

もちろん、当時南は、年齢的・身体的には子供の部類ですから、「これは大人になって、自分で知った方がいいな」という、エロ事情や下ネタ、ダークサイドストーリーなどは、言葉にはしませんでしたが、それ以外は、なんでも僕らは話し合う関係でいました。


彼女ができると、まず南に報告しました。そして毎回、南に紹介もしました。不思議なことですが、僕が彼女と別れた日には、なぜか南は、それを夢で見たりすることも、これまでに数回ありました。彼女と別れた翌日、たまたま廊下で清ちゃんに会い、「南が、「ゆうちゃんが彼女と別れたんじゃないかな〜」って言ってたよ。なんか、ゆうちゃんが、彼女と別れる夢見たんだって」というシチュエーションも、今までに二回体験しています。

その時つき合っていた彼女の写真を、たまたま10枚くらい挟んでいた『HUNTER×HUNTER・6巻』を、写真を抜き忘れたまま南に貸してしまったこともあり、数時間後、「ゆうちゃん、大事なものが入ってたよ」と、ニヤニヤした南から、団地の廊下でそれを手渡されたこともありました。
当時5年生だった南と、その彼女を引き合わせると、僕同様、『女の子大好き党』である南は、僕の彼女をお姫様だっこし、自分でも笑えるのですが、なんだかヤキモチに似た感情が浮かび上がる場面もありました(もちろん、そんな大人気ない感情反射は、南には内緒にしてありますが)。


南とは、毎年一本、夏休みに映画を観にも行きました。
スターウォーズ』、『ダイナソー』、『シュレック』、『猿の惑星』、『スカイ・クロラ』、『サマーウォーズ』など、名作鑑賞を地層のように、互いの記憶にともに積み重ねていきました。

18歳の南が、進路に思い悩み、「ゆうちゃん、人生の意味って何?」って、テンパりながら電話して来たこともありました。僕はそれに「南、人生の意味は人によって違うから僕には限定できないけど、僕は、「生きることは、影響を与え合うことで成り立つ」とは思っているよ」と、いつものスタンスで答えました。思い悩む南には、全然響いてないようでしたが。


これは南から聞いたのですが、いつの間にか僕は、南の中で、『ヒーロー』的存在に設定されていたとのことでした。その話を聞いた時、「『ヒーロー』なんて荷が重いし、嫌だな〜」という顔が露骨に出ていたみたいで、それを感じ取った南は、すかさず、「ゆうちゃんには僕のヒーローである責任があるんだよ!」と、重たい責任感を吹き飛ばしてくれるかのような、爽やかな笑みを浮かべました。

しかし、南のヒーローである僕は、南の中にある「ヒーロー像」に見合わないような転落を、だんだんと見せはじめました。それは、僕が27歳、南が12歳の頃あたりから、僕の身体を蝕むように、徐々に進行していきました。

南も僕も、その転落も込みでつき合えるだけの、信頼関係が強くありましたから、関係が途絶えることはなかったですし、いつでも笑顔で対話はできたけれど、もしそれがなかったら、たぶん南も、そして誰もかも、周りからいなくなってしまうような地獄街道を、僕は歩みはじめていたのでした。(つづく)


植岡勇二・ペヨー太

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