デジタルzin!ポエジン『宇宙塵』/即興詩人・AI UEOKA

即興詩人・AI UEOKAによるデジタルzin! 雑多な芸術・らくがき日記。

西山芳浩・宮下敬史 二人展


水道橋にあるうつわ専門のギャラリー『千鳥』さんにて、現在行われている『西山芳浩・宮下敬史二人展』にお邪魔して来ました。
この展示会は、ガラス作家の西山芳浩さん・木工作家の宮下敬史さんのお二人の作品が、絶妙な相性を持って同居し、展示されているというもの。
現展示会にて初めて対面したという、このお二人を引き合わせ、組み合わせた『千鳥』さんのセンスにも驚かされました。

金沢でガラス作品を制作している西山さんは、なんでも高校の頃から制作に入り、今では約二十年のキャリアとのこと。
一方、横須賀で木工作品を制作している宮下さんは、驚いたことに、作家活動をはじめたのは、まだ約五年前とのことでした。
こういった、対照的な経歴を持つ二人のコントラストも面白く感じました。
それぞれの作家さんには、それぞれ創作活動に入るにあたっての理由やタイミングがある。
経歴の長さ、短さに関係なく、二人がこうして同じ場所で作品を並べている。
それは、作品という、作家さんの『今』を映し出す物が、なによりも説得力を持って、お二人の経歴や、過ごしてきた時間の密度、生き方のようなものを表わしているように思えたからです。人の数だけある『人生』、その交差点としての『時間』の不思議を感じます。

西山さんのガラス作品は、全景として、一見シンプルな形で、日常使いとして手に取りやすい印象を受けます。
しかしよくよく眺めてみると、そのひとつひとつには、作品としての個性や引っ掛かりのようなものが込められている。
薄いガラスに、透明な鱗のように細やかな凹凸が散りばめられたコップ。五角形なのか? 六角形なのか? 特に決め事もないかのような、有機的でラフな形状の飲み口をした厚いガラスのグラスなど、そういった特性の中に、西山さんのつくる姿勢や、こだわりのようものが想像されるのも、手づくり品の良いところだと再確認しました。
手づくり品の向こうには、それをつくった作家さんがいる。当たり前のことですが、これはすごく大きなことだと思うのです。

木工作家の宮下さんの作品にも、もちろんそれが伺えます。
宮下さんの作品と対峙する時、僕にはいつも、木目という楽譜が奏でる無音の音楽が聴こえます。
それは時に静寂を奏で、時に荒々しいうねりを表現する。
木目を通して、木々が立ち並ぶ森が見える。木の記憶が香る。
そういった詩的な側面を持ちつつも、生活品としての機能をきちんと有する作品群。実際、今回僕が買わせて頂いた匙も、僕が家で使わせて頂いている宮下さんの匙と、基本同じ形のもの。それは、食べ物が匙に吸い付くように使いやすいからです。

今回の展示会で一番印象的だった作品は、宮下さん作、横長・長方形の黒い平皿。平坦な表面のそれは、木目の波模様が気を引く他の平皿たちよりも、すごくラフに仕上げられていて、輪郭線にもその気取らない感じが、いびつな曲線として敢えて残されている。

宮下さんのお話では、この木材は、全面的に修復工事を行った工房の、柱から出たものだということ。ああ、なるほど。この作品の質感や曲線が描き出してるのは、作家としての宮下さんの日常そのもので、その日常から生まれる作品たちの、ある種、象徴となるかのような作品なのだと感動したのです。


『芸術』とは一体何でしょうか? 様々な答えが聞こえてきそうですが、僕が最近たどり着いた答えは、あらゆるものが芸術的に感じられるのなら、あらゆるものが『芸術』なのだ、ということです。


僕は、言葉を素材にして表現を行っていることが主で、最近は詩をメインに活動をしています。
僕の作品だけでなく多くの詩が、難しいとか、理解に苦しむ、という印象を、一般的に与えている側面も承知しています。実際、僕の詩作品も、難解であるものもあるでしょうし、技巧的なものも少なくありません。


そんな側面に、何か違和感を覚え出した時、お世話になっているある女性から、たまたまメールを頂きました。
僕は団地に住んでいるのですが、メールくださったその方は、以前のお隣さん一家のお母さんです。
僕は、そのお子さんが小学一年生の時に彼と友達になり(その時、僕は二十一歳)、彼が二十八歳になった今も変わらず友情は続いています。
で、先日、彼の誕生日にプレゼントを贈った際、お母さんからお礼を兼ねてメールを頂いた、という流れなのですが。
メールには、一切の気取りがないシンプルな言葉で、『まだ幼かった親たちは、お隣のお兄ちゃんにどれだけ助けられたか』というような感謝のお気持ちが綴られていました。


そのメールは、僕が探していた答えでした。
技巧的な表現や難解さが回避されていた、そのメールの中には、あらゆるものが込められ、宿っていました。
僕が今までに書いたどんな詩も、言葉も、こんな風にダイレクトに、人生の深みや愛情を伝えることはできていなかったように痛感しました。

今回の宮下さんのその作品は、宮下さんという作家さんを通して、このメールの一件が形になったかのうような『日常』という『芸術』をストレートに表していましたし、それは作家という人間、そのものだったように思っています。




文章・植岡勇二 https://ueokayuji.tumblr.com/
写真・鈴木一生 https://www.instagram.com/szkissey/



『西山芳浩・宮下敬史 二人展』

2017年7月22(土)〜29日(土)
12:00〜19:00(最終日は18:00まで)


『千鳥』 http://www.chidori.info

〒101-0061
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TEL/FAX 03-6906-8631