デジタルzin!ポエジン『宇宙塵』/即興詩人・AI UEOKA

即興詩人・AI UEOKAによるデジタルzin! 雑多な芸術・らくがき日記。

伊藤くんのこと


記憶やイメージが世界をつくり出す、という証のような時間があった。

昨日のことだ。神奈川で林業をやっている友人・伊藤くんと遊んだ。二カ月振りに会った僕らは、六本木で落ち合い、国立新美術館に行き、その後、大江戸線で出れる花見地ということで代々木を選んだ。

無計画な僕らは代々木に着くと、代々木には明治神宮があることを思い出し、明治神宮を抜けて原宿へ行くことにした。明治神宮に着くと、伊藤くんとこんな話をした。共通の友人が今度、明治神宮で挙式を上げること。18年前、伊藤くんと出会うきっかけになった友人たちと遊んでいた頃、僕はよく明治神宮に来ていたこと。今、その頃(僕が24歳の頃)にあった出来事を中心に綴った小説を書いていること。さらに今週末に静岡手創り市のお手伝いで、明治神宮に似た参道を持つ護国神社にお邪魔すること、そういったことすべてが流れ込み、『今』をつくっているかのように感じられたこと。

明治神宮を原宿方面に抜ける参道で、僕らはイヤホンを二股に分けるコネクタを使い、二つのイヤホンで伊藤くんのおススメの曲を聴きながら歩いた。一曲目はシタール中心のインドのジャズ。二曲目は、伊藤くん曰く、「青臭い感じがいいんだよ」と教えてくれた日本の若いロックバンド。その中の歌詞に「イカレタ出来事があってもそれは言わずにいた。でもこの場所では、それは受け入られ、どうでもいいように思う」的な言葉があり、思わず涙腺が緩む。伊藤くんはこんな風に、昔から、誰かの曲を聴かせてくれる時、それを手紙のように使う。

そして僕らは、伊藤くんが昔通っていたデザイン専門学校の前に来た。そこに来る途中、道を迂回するのではなく、代々木競技場の敷地内を抜けた。「懐かしいなこの道。こんな風に面白い道や場所を探すのが好きなんだよな〜」と伊藤くんが笑う。

その後僕らはまたしても無計画なまま渋谷に出た。数日前に渋谷を舞台にした映画「バケモノの子」を観たばかりなので、またしてもイメージの具現化を思った。何年振りにこうして渋谷の街を歩いたろう。それこそ伊藤くんと出会った時期はしょっちゅう渋谷にいたが、最近は渋谷の街が肌に合わずどこか敬遠していた。でもそうして、伊藤くんとお互い、渋谷の思い出について語りながら歩いていると、渋谷が恋しくてたまらなくなっていった。

そんな中、僕は伊藤くんに謝った。それは過去、僕が伊藤くんに行ったある出来事についてだ。長い年月を掛け、僕の中で何かが変わり、僕は自分の中の否に気付き、認め、そのことを昨日、伊藤くんに打ち明けることが出来た。伊藤くんは「植くんが悪いとも思わないよ。人には人のやり方があるし」と言いながら自分の側から見たその出来事について語ってくれた。


僕らは、シネマライズのあった場所に行き、センター街を抜け、スクランブル交差点に来た。そこから人波を見渡すと、まるでみんなが桜の花みたいに見えた。生い茂り、風に揺れ、エロティックに揺れる桜の花。伊藤くんも僕も「渋谷面白いね」「祭りみたいだ」と言い合い、そして二人して「大嫌いだった渋谷をまた好きになったよ」と笑い合ったのだった。